ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

あっ、

あっという間。

北海道の左上から札幌まで、バスだと2時間から3時間。経由地やルートによってかわりますが、1日1便だけ往復する日本海ルートは3時間コース。札幌から石狩に抜けて、ひたすら海沿いのオロロンラインを北上します。

 

先日、前後の予定に都合がよかったので、久しぶりに日本海ルートで帰りました。16時すぎに札幌駅前ターミナルを出発するバスは、乗客もまばら。車高のたかいバスが公道に出ると、乗用車のてっぺんが見えます。眼下で抜きつ抜かれつしていた車は、札幌をはずれたあたりからすいてきて、バスもにわかにスピードをあげました。身を寄せ合うようにして隣りあっていた家々のドアがだんだん離れて、おしまいには民家がぽつぽつ、更になった土地に夏の名残のような草が生えています。やがて、海が見えてきました。寄せては返す穏やかな波間のむこうに太陽がやってきて、空を赤で染めようか、それとも重たい雲で覆い尽くしてしまおうかと悩んでいるようです。ゆっくりゆっくり傾く陽。バス前方に備え付けられた時計を見ると17時で、ずいぶん長いこと窓の外を眺めていたことに気づきました。

 

ふいに、目が覚めました。

珍しく穏やかな日本海の波を目で追っているうちに、眠ってしまいました。

時間にして30分ほど。

それまで見ていた窓の外に目をやると、まっくら。

 夜です。

 

青とも赤ともつかない空はすっかり群青に沈んで、雲の気配もありません。穏やかな波間は空を映すようにだんまりと黒くて、飲まれてしまいそう。蛍光灯のつくバスの車内とは対照に、窓の外は、あっ、と思った次の瞬間、すっかり夜なのでした。

あっという間。

そういえば、あっという間に今年の夏は行ってしまった。きっと、あっという間に冬が来て、あっという間に今年が終わって、あっという間に新しい何かが始まるのかもしれません。背筋に冷たいものが走る感覚がして、上着の前をあわせました。