ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

しずかに

「それでは、イベントスタートです!」

わたしたちが企画したイベントが、無事開催に至りました。いえ、無事ではありません。天気が危ぶまれ、翌日に延期。朝起きたときから空はパッとしなくて、でも今さら中止はできません。降ってくれるな、どうか降ってくれるなと祈りながら13時に現地入り、準備、開場すればもう、息つく暇もありませんでした。うちあわせを重ね綿密に計画を練ったけれど、到底手が足りなくて終始ばたばた。口元をおおうマスクのせいで呼吸がままならず、ふうふうと胸が激しく上下します。立ち止まってマスクを外し、深呼吸をしたときでした。

 

真っ赤。

日中から、厚い雲がかかっていました。雨が降りだすのではないか、風が吹くのではないか。わたしたちの心配をよそに、頭上でぐるぐると渦巻く鼠色の雲。その間がひらけて、日本海に沈む夕陽をくぐらせ、グラデーションを描いていました。ずっとその空の下にいたというのにさっぱり気づきませんでした。

 

夕陽は、静かにやってきます。

いくらバタバタと動きまわろうと、

いくらワイワイとイベントをしようと、

いくらワハハと笑い声をあげようと、

夕陽は、そろそろと少しずつ空を染めて、しっかりと夜を連れてきます。

「みなさん、素晴らしい夕陽です」

そんなアナウンスにも、日本一の夕陽をうたう町に住む人にとっては日常茶飯事、ちらりと一瞥する程度。移住者のわたしにとってはそれが、地域の素晴らしさに気づかない寂しさであり、いまこの会場にいる何十人という人のなかで、素晴らしい夕陽を独り占めしている優越感でもあるのでした。

静かに、夕方のひやりとした空気を吸い込みました。

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