爪、すてきですね
1年半ほど、ネイルをつづけています。
プチプラポリッシュのセルフネイルだけれど、下手の横好きも高じるもので、週に2度ほど爪を塗りかえます。色やデザインをかえるだけで、服装や化粧、果てには気分もかわります。
ネイルをはじめた当初は、レッドやダークグリーンなどの鮮やかで濃い色や、ブルーやパステルパープルなどの人肌からかけ離れた色にためらいがありました。大人の女性として、社会人として、この色はいかがなものか。誰かに何か言われやしないか、知らぬところで迷惑をかけるのではないか。しかし、飲食業でも接客業でも、医療従事者でもないわたしの爪色に関心を寄せる人など、数えるほどしかいないのです。1年半もころころ爪を塗りかえていると、はじめこそ「かわいいね」「すてきだね」と声をかけてくれた女友達ですら、コメントをくれなくなります。でも、それでいいのです。
もちろんコメントをもらえば嬉しいものですが、誰かのために、わたしはわたしの爪を塗りあげているわけではありません。美しい爪先が視界に入るだけで、嬉しくなったり勇気がでたり自信をもつために。わたしはわたしのために、ネイルをするのでした。
そう思うようになってからは、わたしの爪先は随分ダイタンです。
レッドでもダークグリーンでも、ブルーでもパステルパープルでもお構いなし。
わたしが楽しければ、それで良し。
先日、公的な場所へ出張取材に伺いました。爪先を見ると、アイボリーの塗りかけネイル。まあ、レッドやダークグリーンやブルーやパステルパープルよりはマシだろうと出かけました。
つつがなく取材を終えて、帰り際。
「爪、すてきですね」
声をかけられて、固まりました。女友だちや家族と、仕事相手では、おなじ言葉でも意味合いが異なるでしょう。
「すみません」
ひと言返したけれど、わたしはおそらく、またアイボリーのポリッシュをとるでしょう。わたしはわたしのために、爪を塗りあげるのです。