ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

夏の日常

「このあたりかな」

港はすでに人が集まりだしていて、あちらこちらでキャンプ用のイスをたてたりレジャーシートを敷いたり、味気ないコンクリートの地面が色とろどりに塗りかえられています。わたしたちも、岸壁にほど近い安全ロープの前に、アニメキャラがビビットに描かれた小さなレジャーシートを広げました。

湾の向こうの海に陽が沈んでいきます。雲がグラデーションを作っていて、黄、橙、白、赤、紫。「綺麗だね」なんて言っているうちに街灯がついて、あっという間にあたりは真っ暗。人の数も、日暮れ前の2倍ほどにはなっているでしょうか。いよいよです。

 

ヒュウーどおん

 

隣町の花火大会へ行きました。

これまで、暮らしている町のお祭りと日程が被るために行けなかったのですが、今年は新型コロナウイルスの影響で我が町のお祭りが中止。隣町では花火の打ち上げのみ行われることになりました。北海道の左上が田舎とはいえ、各町お祭りや花火大会があります。花火の数とか、打ち上げ場所とか、趣向を凝らした花火大会が見られるなか、あるひとは「隣町の花火大会は、北海道の左上一!」と豪語します。我が町の花火大会すら差し置いてそう語るので、一度、どんなものか見てみたいと思っていました。

 

なるほど。

腹の奥に響く破裂音、パラパラと散る火花、夜空を彩る花火。対岸から上がるそれは大変近くて、打ち上げの高さが高いほど、ぐっと迫る感覚がします。5つ設置された発射台から、間髪入れずに打ち上がる花火。みな一様に空を見上げ、時に歓声を上げ、時に拍手をして一瞬の芸術を堪能します。すっかり打ち上げが終わるころには空に星が瞬いて、それが先程の花火で散った火の粉のようにキラキラしていました。

たしかに、北海道の左上一という言も頷けます。けれどわたしは、やはり暮らしている町の花火が一等美しいのではと思ったりもするのです。はやく、お祭りを楽しめる日常が戻ってくることを願いながら。