ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

におい

においがしています。

ずっと、母の使う洗顔石鹸のにおいがしていて、ずっとしているということはにおいの元はわたしなのだろうけれど、実家に帰ってその洗顔石鹸を借りたのは、もう3日も前のことでした。その間に顔を洗ったり風呂に入ったりしているのだから、いい加減落ちても良いと思うのですが、相変わらず、振り向いたり風に煽られたりするたびに、その石鹸のにおいがするのです。

そういえば、母の洗顔石鹸の前には、友だちの家のにおいがしていました。実家に泊まったのは前の週末。その前の週末には、友だちの家に泊めてもらったのです。家に帰ってきた平日、夜眠るときに布団を鼻の下まで引き上げて目を閉じると、わたしの部屋のにおいでも、枕や布団のにおいでも、シャンプーのにおいでもなく、ほんの一晩泊めてもらった友達の部屋のにおいがしました。

 

においって不思議です。わたしがいくら、香水やシャンプーやボディクリームや柔軟剤のにおいにこだわったって、容器の蓋を開けて肺いっぱいに香りを吸い込むその瞬間くらいしか、そのにおいを感じません。付けなれたり着なれたりしてしまうと、鼻はすっかり反応しなくなってしまいます。けれど、嗅ぎなれないダレかのナニかのにおいは、ふとした時に鼻腔をくすぐって、その人の存在と楽しかった思い出をひきだします。

 

わたしは所謂、においフェチなのだと思います。においに敏感で、また、常に良いにおいの中にいたいと思って、香水やシャンプーやボディクリームや柔軟剤にこだわります。

けれど、どんなにこだわったって、大好きな人たちの、大好きな思い出には勝てないでしょう。日に日に薄れていく思い出のにおいに浸りながら、どうか、においが消えてしまいませんようにと、できもしないことを願うのでした。