ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

一般国道40号

アクセルを踏むたびに鼓動が高まる道。

なんの変哲もないバイパスは、片側一車線で信号はなく、みなスピードのままに車を走らせます。周囲は山。たまに開けたかと思えば草がまばらに生えるばかりの野っぱらで、鹿がひょっこり顔を出すたびにハンドルを握る手に汗が滲みます。いえ、鼓動が高まるとは、恐怖の意味ではありません。期待でした。

 

大好きなバンドが生まれた街が、日本の最北端です。わたしは、同じ北海道といえ道南出身。北海道の左上に越してくるまで、訪れたことのない地域でした。

 

学生時代から繰り返し聞いた曲。

つらい時もかなしい時もうれしい時も寄り添ってくれたバンド。

奥深いのにすんなり耳に馴染むサウンド、映画を思わせるストーリー性ある歌詞、ボーカルのすっきりと胸に届く声。

それらが生まれた街に、わたしはいま、向かっている。

考えると、胸が大きく鳴りました。

 

何があるというわけではないのです。

記念碑があるとか、街の至るところでバンドの曲が流れているとか、PVに登場したスポットがあるとか、ファン心理をくすぐるコンテンツは、一切ありません。

けれど、愛するバンドの愛する曲のルーツがここにあると思うだけで、車を走らせる海岸線とか、風が吹き荒ぶ丘の上とか、寂れた街のアーケード街のどこかに、バンドの気配を感じるのでした。そこの交差点を、バンドのメンバーたちが静かに渡っていくような、そんな気さえするのです。

 

わたしはきっとこの道を、この溢れんばかりの想いを抱えながら、何度でも渡っていくのだと思います。アクセルを、ちょっと強く踏み込みました。

 

稚内

稚内