ちょっぴり
社内が騒然としていました。社内、といっても小さな事務所だから、騒然とするほどの社員数もいないのだけれど、そこにいる人それぞれが声を荒げる程度には沸き立っていました。
議題は、外注にだした広告の初稿。校正のために初稿として送られてきたというそのデータは、テーマやデザインがちぐはぐで、到底このまま誌面には載せられないという話でした。わたしも、担当スタッフの肩越しにそのデータを見ながら、首を傾げます。
「だいたいさ、文体がおかしいじゃない?です、ます、の語り口のなかに急に"だぞ"ってなに?」
書類の山に埋もれながら彼女が言います。その眉間には、深く皺が刻まれていることでしょう。わたしは「たしかに、突然な感じがありますね」と同調します。
「そうよね!まったく、適当なんじゃない!?」
彼女は声を荒げるけれど、わたしの声は、彼女ほど大きく出ませんでした。
わたしも、文章を書く仕事をします。
道の駅に置かれるフリーペーパーとか、PR用のSNSとか。そういうとき、わたしは細心の注意を払います。
数年前、わたしがわたしの文章でSNS用の記事を書いたとき。
「この表現って、一般的じゃないよね」
上司のチェックが入って、修正しました。けれどわたしは、その文章は、その表現であるからこそ生きると思って、あえてそう書いたのです。そのとき。広報の目的において書かれる文章で最も重要なのは、表現の独創性でもインパクトでもなく、いかに「伝わるか」であると学びました。
だから今回の広告も、テーマやデザインに的外れなところがあるけれど、文章表現については、もしかしたら、先方のデザイン担当さんの個性であるのかもしれないと思いました。良かれとして、独創性やインパクトとして、あえてそう書いたのかもしれません。そう考えると、大きく声を上げることができませんでした。
わたしは先方に、ちょっぴり同情します。