ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

美しい画が感情を訴えるとは限らない

映画を見ました。

好きで、頻繁に見るほうです。邦画も洋画も、ドラマもサスペンスもジャンルを問わず見ます。するとなかには、美しい映像と美しい音楽で、まるで完成されたアートのような一作があります。美しい旋律を奏でる挿入歌、絵画のように整ったカット、ため息の漏れるような瞬間をおさめた映画は目を引きます。けれど、目を引くことと作品に引き込まれることとでは、全く別です。

 

美しい画が必ずしも、登場人物の感情を観衆に訴えるわけではないことを知りました。

きっと、美しいそのシーンは、わたしの日常生活に差し込まれればさぞ心動かすでしょう。うっすらと昇る朝陽に目を細める彼女とか、車道の真ん中で両腕を広げ青空を仰ぐ彼のあの表情に出くわしたらきっと、一生その光景を胸に焼き付け、忘れられず、憧憬として思い焦がれるに決まっています。でもそれは、彼や彼女がそのシーンに至るまで、起承転結を経て多くを感じ、思い悩む過程があったことを知っているからです。彼や彼女をよく知りもしないのに、その辺でたまたまそんな美しい光景を見たからといって、感情移入し心奪われることはないでしょう。中途半端な心理描写のうえに繰り返される美しい映像は、どうにも宙ぶらりんで、「楽曲」でも「絵画」でもなく「映画」である意義を見失わせます。

 

美しいものは美しいし、印象深く刻まれます。あの映画の、うっすら雪をかぶった畑の真ん中道を行く朝とか、窓からもれる柔らかな陽を浴びて微笑む2人とか。けれど、映画作品においてそのシーンは単なるエッセンスに過ぎないことを忘れてはいけないのだと思います。そのシーンが差し込まれることで味を深める作品の、もっとも根幹の味をしっかり定めることこそ、映画作品を映画作品たらしめるのです。そういうことを思い知らせる映画が、わたしは好きです。

 

▼「うっすらと昇る朝陽に目を細める彼女」の一作

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▼ 「車道の真ん中で両腕を広げ青空を仰ぐ彼」の一作

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