黄色い花の価値
「えっ、わざわざ?」
テーブルの視線が、いっぺんに集まります。
冬、随分はやく訪れる宵の口。いつも良くしてくれるおじいちゃんが、晩ごはんがてらに宴をすると連絡をくれました。電話をもらったときすでに15時をすぎていて、わたしは、車で3時間ほどさきの街にいました。遅れてテーブルについたわたしに、どこにいたの?なにをしていたの?と声がかかります。
車で3時間ほどのところにある公園にいました。
「どうしてそんなところへ?」
ミモザの花を見に行ったんです。
春、背の高い木をすっかり黄色に染める「ミモザ」。あたたかいところを好む花木なので、北海道では温室栽培されています。わたしは、温室をインターネットで調べ、冬の雪道に上下左右と揺れる車体におびえつつ、3時間をかけて、その黄色の花を見に行ったのでした。
「わざわざ花を見るために出かけて行ったの?」
みんなが目を丸くするので、わたしは語調を強めました。
見上げるほどの木が一面に黄色である光景がいかに見事か。それを構成する小さな花のひとつひとつがいかに柔らかく、いかに愛らしいか。温室の入り口までただよう香りが、いかに瑞々しく青っぽく春らしいか。
けれどみんなは「ふうん」と唸るだけで、グラスに口をつけたり料理を含んだりするのでした。
実は、昨年も出かけて行ったのです。けれど昨年訪れたのは3月初旬だったため、すっかり花が落ちてところどころに黄色が残るばかりでした。絶対にこの目で、黄色に染まる木を見てみたい。憧れを強くして迎えた今年。昨年と同じ道、昨年よりまだ少し雪が多く、昨年と同じく3時間かけて行きました。
きっとこれを彼らに話したら、「昨年も行ったの!?」と目をむくでしょう。あんまりまんまるにした目を、美味しい料理ののった皿に落としてしまうかもしれません。だからそれは、そっと胸に秘めておきました。