ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

そういう気分

大学時代、妹と2人暮らしをしていました。

規則正しく学校に通う妹と、卒論の用事しかなくなり居酒屋バイトに通うわたし。生活リズムが異なり、妹が家を出る時間にわたしが起き出し、わたしが帰宅する時間に妹が居間のソファでうたた寝をしていました。

 

わたしは、お酒が好きです。

初めて飲んだときから好きでした。

アルコールによってネジが少しはずれて、でもそれを咎める人はいなくて、みんな同じようにネジをはずして、よく笑います。そうすると、嫌なこととか心配ごととか、みんな無かったことになるような気がしました。社会人になった今でも、そんな気がしています。

だから、仕事上がり、賄いと一緒にお酒を飲める居酒屋バイトはわたしにとって天国で、地獄でした。お酒を飲めるのはいいけれど、店長がどうにも難しい人で、日によって気分が変わるので接し方を間違えると大火傷するのです。

その夜もそうでした。

うまくいかなかったバイトの帰り道。地下鉄の構内には、終電を知らせるアナウンスがやたら反響しています。地上に出ると風が生暖かく、ビルの隙間から見える空は群青色でした。都会のスーパーは24時間あいていて、看板を照らすライトが目を刺激します。前を歩いていたサラリーマンが吸い寄せられるようにスーパーへ入ったので、わたしも続きました。

 

缶チューハイ1本と、チョコ菓子1つ。

ビニール袋をガサガサいわせて家路につきます。もう5分も歩けば自宅。そこでは、居間の電気を煌々とつけたまま、妹がすやすや寝ていることでしょう。そう考えると、足が勝手に、家の隣の公園に向かいました。

 

深夜、住宅街の真ん中の、小さな公園。電灯は1つしかなくて、人通りも車通りもありません。なるべく道から見えないベンチに腰掛けて、缶のタブを引きました。

 

夜中に女の子が公園でお酒なんて、とお叱りを受けるかもしれません。

でも、そういう気分だったのです。