ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

吐いて捨てるように

「こういう胡散臭い人が世界一嫌い」

友人からのメッセージ。吐いて捨てるように言う彼女の声まで聞こえてくるようで、思わず笑いました。

 

彼女とは、大学で出会いました。登校初日のオリエンテーション、ぎゅうぎゅうづめにされた講義室で、ぐるりと見渡したなかに彼女はいました。思えば、一目惚れでした。

 

次に彼女を見たのは、サークル棟の開けはなしたドアの向こう。部員勧誘で沸きたつ建物のなかで、4階の角部屋に彼女はいました。ドアプレートには「ボランティアサークル」の文字。足が勝手に進みました。

背が高く、スルリとした黒髪が肩に落ちています。綺麗に通った鼻筋とまっすぐな瞳が印象的。話しかけると遠慮がちに笑って、それはわたしに対しても、それ以外に対しても同じでした。この子が、心から笑う顔が見たいと思いました。

 

その顔は、案外すぐに見られました。わたしの猛アタックの成果でしょう。同じ派遣先でボランティアをすること3回目、活動終わりにごはんに誘い、距離が縮まりました。

 

深いところで思考する人でした。

誰にでも微笑みかけるけれど、そのぶん、きちんと傷を負う人でした。

だからこそ、思うところを心に押し込めてしまう人でした。

 

彼女と出会って9年目になります。大学を卒業したいまも連絡をとりあいます。

「いま隣町にいるんだけど、これから遊びに行っていい?」

「なにそれ、そんな人と付き合うのやめなよ」

当時の彼女からは想像できない顔を見るようになりました。彼女が哀傷や憎悪といった感情のままの表情をするたびに笑ってしまいます。彼女は、そんなわたしにお構いなし。感情のままにつらつらと、吐いて捨てるように話します。

 

わたしは、彼女が心から笑う顔を見たいと思いました。でも今では、それ以上を見ている気がします。それが何より愛おしいのです。