ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

きもちのいい人

「こんにちは」

綺麗な方だと思いました。マスクで顔半分は隠れているけれど、ゆるくウエーブのかかった明るい色の髪、朗らかな声と目元の皺が、優しい印象でした。

「初めまして、名刺をお渡しさせてください」

自己紹介をします。それから、仕事のはなし。上司から引き継いだ打ち合わせの内容に併せて、企画担当として要点や今後の流れを伝えます。その方は落ち着いたトーンの声と的確な返答、また、時折「いいですね!」と相槌を挟んで、スムーズに打ち合わせが済みました。

「それでは、また」

建物を出て車に乗り込み、ふうとため息。重くはなく、ひと息つくような軽い息。帰りの車内では、カーステレオから漏れる音楽に鼻歌がこぼれました。

きもちのいい人。

 

仕事柄、さまざまな方とお会いしますが、「また会いたい」と思う人は稀です。

お互い仕事の話をしているわけで、親交を深めることが目的ではないので、当たり前と言えば当たり前。最小限の労力で、最大限の結果を出したいと考えると、感情を削ぎ落としたビジネスライクな印象は、仕事を円滑化するツールとも言えるでしょう。

けれど、それを感じさせない人がいます。

高すぎず低すぎない声のトーン、朗らかな表情、私情をはさまない適切な応対。

仕事以外の、プライベートシーンでは当たり前のはずのコミュニケーションツールを、ビジネスシーンで使いこなす人と出会うと感動します。

緊張が声のトーンに出てしまったり。

理不尽な要求に眉が寄ってしまったり。

距離感をはかり違えて、踏み込んだ発言をしてしまったり。

一時的な感情に飲まれて、関係のないその方への応対が雑になってしまったり。

社会で生きていると、たびたび自己嫌悪に苛まれます。だからこそ、それらの自己管理が行き届いていて、かつ人間的な優しさを感じられる方とビジネスシーンでお会いすると、わたしもそうありたいと切に思うのです。

きもちのいい人。

そういう人でありたいものです。