ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

ようやく

大好きなこと。やりたいと思って始めたこと。それが、どうしてもできなくなってしまったとき。彼女は、彼女に問いました。

「それでもできなかったら?」

「やめる。散歩したり、景色をみたり、昼寝したり…何もしない。そのうちに、急にやりたくなるんだよ」

子どものころ見たアニメ映画の女の子たちが言っていました。わたしはそのとき、それがどういうことなのか、ちっともわかりませんでした。だってそもそも、やりたいと思って始めたことが、どうしてもできなくなってしまうという状況がわからなかったのです。やりたいならやればいいし、やれないならやめればいい。そう、これまでわたしは、全てのことについて、やれなければやめればいいのだと思っていたのでした。勉強も、仕事も、人間関係も、決して消極的に向き合うわけではないけれど、精神的に追い詰められるくらいならやめてしまえばいい、所詮その程度の物事なのだと考えていました。だから、彼女たちが必死に向き合うそれらについて、到底理解が及ばなかったのです。

 

絵を描くことこそが唯一の才能と信じ、暮らしの全てを捧げる彼女。

空を飛ぶという天性の才能に頼り、自立した暮らしを営もうとする彼女。

それを投げ出したら、彼女たちに残るものは何もない。だからこそ、投げ出すことも、逃げ出すこともできない。ひたすらに、真摯に向き合う。そういう姿勢を、わたしは知りませんでした。

 

最近ようやく、わかった気がします。精神的に追い詰められて、投げ出したいし逃げ出したいけれど、ここでそうしてしまえば、わたしは終わってしまうのだと思います。だからまだそれに向き合わなければなりません。でも、それでもできなかったら。それなら、一度やめてしまって。散歩したり、景色をみたり、昼寝したり…何もしないで。そのうちに、急にやりたくなるのでしょう。