ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

お見送り

田舎の雑貨屋さん。大工仕事が得意そうなご主人と、グレイヘアが素敵な奥さまが営んで、広い店内に古道具が所狭しと並べられていました。ガタガタいう引き戸をひいたとき、店の真ん中に置かれたダルマストーブがぱちぱちいって、そのまわりにご主人と奥さま、そして近所の方でしょうか、わたしとそれほど歳のかわらない男性2人がダルマストーブを囲んで輪をつくっていました。

ゆっくり見てまわって、30分。広い店内は本当に広くて、奥のほうはダルマストーブのぬくもりが届いておらず、上着の前をかき合わせます。北海道の左上には、昨日、初雪が降りました。

 

「おかえりなさい、どうぞ、あたたまって」

みんながダルマストーブを囲むところまで戻ってきたとき、奥さまが声をかけてくれました。手を擦り合わせているのが見えたのでしょう。

「向こうは暖房がついていないから、戻ってきたお客さんが心配になるの」

ころころと軽やかな声。促されるままダルマストーブの前に座ると、ご主人がストーブの小窓を開いてかきまぜました。

「いまの人はこんなの、見たことないでしょ。これ、ほんとは石炭いれるやつなんだけどね」

そう言って、横に積まれた段ボールの切れ端をごうごうと火をあげるダルマストーブの中に投げ入れます。

「安平だったかな、小学校にあったやつらしいよ」

ダルマストーブに手をかざしていると、店の外に行っていた奥さまが戻ってきました。

「月が綺麗。まんまるで」

「ああ、月か」

ご主人はあまり興味がないご様子で、それがまた可笑しくて。わたしも月を見たくなって、腰を上げました。それ以上いると、お尻から根っこが生えてしまう気がしました。

「あら、じゃあお見送りさせてくださいね」

奥さまが店の外まで出てきて、Uターンする車に手を振ってくれました。

 

わたしは、家族以外にこんなお見送りをされたことはありません。こういうお見送りをできる人になりたいと思ったものでした。