ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

迷路、これ人生なり

「迷っていきますか?」

先輩が言います。言われた方は「はあ、」と訳がわからない顔をしていて、それにわたしは笑いました。

 

子ども向けイベントの仕事でした。わたしの担当は、段ボール迷路。前日に大人5人でひいひい言いながら設置しました。特に先輩がよく動いてくださって、「俺、太めだから子ども向け迷路とか無理だよ」なんて言いつつ、四つん這いになって迷路内のパーテーション設置や装飾をしてくださいました。ある程度設置が進んで、ふうと一息ついていると、他ブースの方が様子を見にやってきて、ほうほうと迷路内をのぞきます。

「こりゃあすごいね、明日は盛況だ」

仕事とはいえ嬉しくてニコニコしていると、先輩がスタート地点を指して言いました。

「迷っていきますか?」

「え?いやあ、」

先方が困ったように笑います。

「人生と、どちらが難しいでしょうね」

先輩の言に、広いホールでわたしの笑い声だけが響きました。

 

イベントは盛況。大人5人でひいひい言いながら準備した迷路は、200人超の子どもたちが遊んでいきました。この街にこんなに子どもがいたんだな。歓声あふれる子どもたちのなかには、目に涙をいっぱい溜めてスタート地点から出てきた子もいました。迷路内の孤独に耐えきれなかったのでしょうか、それとも、出口が分からないことの屈辱でしょうか。

 

「こりゃ、大人の頭も悩ませるな」

イベント後。片付けをしながら、誰かが言いました。

設置は5人だったけれど、片付けは他ブースの方も手伝ってくださいました。片っ端から、段ボールを引っ張ってきては畳み、引っ張ってきては畳み、さらに大きな段ボール箱にしまい。誰だよ、再利用するって言った奴。大人10人でひいひい言いながら作業していると、誰かが言いました。なるほど、子どもも大人も惑わせる迷路、人生だなあと思ったけれど、わたしは、先輩のように声には出せませんでした。