ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

人生を楽しんでいない人間の部屋

「人生を楽しんでいない人間の部屋だ」

初めてわたしの部屋を訪れたその人は、ぐるりと見回して言いました。

その部屋から、今週末引っ越します。

 

1LDK風呂トイレ別、日当たりが良く、飲み屋街から歩いて帰ってこれる距離。暮らしてまる5年たつけれど、昨日引っ越してきたかのように、変わりない気がします。テレビ横にネイルポリッシュが並んで、棚の上にピアスのディスプレイが増えたくらい。あ、経年劣化でボロボロになった洗面台が、半年前入れ替えになりました。ダイニングキッチンの真ん中という、おかしなところに設置された洗面台だけがいやに白く、木造2階建アパートの1室で小綺麗に浮いています。それくらい。

 

「いつ来ても片付いているよね」

それは、言い換えれば「物が無い」ということかもしれません。インテリアに凝ることも、暮らしを便利にするグッズを買い足すもありませんでした。飾り立てるだけの趣味や嗜好がないのかもしれません。

引っ越しのために用意した段ボールは10箱。5日前から箱詰め作業を始めたけれど、なんだかあっという間に終わりそうで、段ボール箱を7箱組み立てたところでやめました。あとは、前日でいいでしょう。

確かに、わたしの部屋には物がありません。でもわたしは、毎週のように飲みに出かけ、仕事帰りにDVDを借りてきて、週末には旅に出ます。それら人生の断片を、部屋に飾り立てることはないけれど、ピアスの横にはお気に入りのお酒の瓶を並べ、テレビ棚にはお気に入りの映画のDVDを収め、ベッドルームには旅先から出したハガキを飾ります。わたしはきちんと、人生を楽しんでいます。

 

この部屋から、今週末引っ越します。

引っ越した先の部屋でも、わたしは人生を楽しみます。