ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

北海道の左上

「カラオケ行くぞ!」

時刻は22時30分。「作業会」と称したわたしたちの集中力は、2時間半を経過したところで完全に切れてしまいました。わたしたちが暮らす北海道の左上には、仕事終わりに勉強や仕事や読書ができる手頃なカフェやスペースがありません。そこで一軒家で間借りしている彼女の家に集まって、各々「やらなければならないけれど1人ではどうにもダラけて手がつかないこと」をする「作業会」を、週に1回開いています。

 

彼女がフラッと立ち上がって台所に消えていきました。彼もうーんと伸びをして、彼女の後ろ姿に声をかけます。22時。ぽつりぽつりとした言葉の掛け合いがやがて会話になって、笑い声が上がり始めたら、おしまい。本日の作業会は終了です。すると彼女が堰を切ったように大きな声で言いました。

「カラオケ行きたい!!!」

それはちょうど、「この北海道の左上から、カラオケがなくなるかもしれない」という話の最中でした。彼が先日、飲み屋のカウンターで聞いたというのです。

「でも、噂でしょう?」

「ウソかホントか、確かめに行こう!」

いそいそと上着を羽織り、マフラーをぐるぐる巻きにする彼女。わたしもつられてコートの袖に腕を通します。月曜からこいつらは、と呆れた顔で笑いながらも荷物をまとめる彼がスマホをチェックして、

「あっ!!!」

大きな声を出しました。

「どうしたどうした」

「カラオケ、24時までだって…」

北海道の左上のカラオケは、閉店時間も早いのでした。

「どうする!?」

「わたしもうカラオケの喉!!!」

「よし!!!行こう!!!」

こうして、雪ちらつく冬の夜、1時間と少しのカラオケのために繰り出したわたしたち。「やらなければならないけれど1人ではどうにもダラけて手がつかないこと」に向き合った達成感を、心地よく冬の風が煽り立てました。これも、北海道の左上ならではです。

 

今週のお題「最近あったちょっといいこと」