ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

口内炎

「あいちゃん、ランチ、カレーにしない?」

「ごめんなさい、きょうはちょっと…」

先輩からのお誘い。泣く泣くお断り。なぜなら、きょうのわたしは下歯茎に左右ひとつずつ、口内炎をこさえているのです。

 

口内炎ができるなんて、いつぶりでしょう。しょっちゅう口内炎に悩まされている人もいますが、わたしは元来、縁がない方です。それでも、歯茎を刺激するそれが、しかも2つもできてしまった理由は、すでにわかっていました。

昨夜のラーメンと、アルコールとあらば見境なく流し込んだお酒。

それ以外に考えられません。

 

わたしは、ラーメンの耐性がないのでしょう。そもそも家族がラーメンを好ませんでした。あまり外食をしない家でありましたし、ラーメンに向けられるだけの、食に対する執着が薄い家でした。たまに外食を決めて、でもお目当ての店がどこもいっぱいで、諦め半分で入ったラーメン屋さんの思い出が、2つ3つあるくらい。

 

海に面したラーメン屋さん。建物の裏手からざあんざあんと大きな波の音が、駐車場にいても聞こえてきました。入ると、海に向かって大きく窓がとられた小上がりの席に案内され、すっかり日が落ちて真っ黒の海を眺めていました。すると父が「しょうゆ」母が「みそ」と言うので、わたしは少しだけ迷って「しお」と注文しました。味は、覚えていません。妹が「麺類は途中で飽きる」と言って残して、それを父が平らげて、母がうーんと首を傾げながら家路についたことだけを覚えています。わたしたち家族に、ラーメンを食べる資格はないでしょう。

 

口の中にできた口内炎は食べ物を口に運んだり、大きく笑たびヒリリと痛みました。そして、家族でラーメンを食べた日のことを思い出させるのでした。