ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

抜け道

「そんな遠回りをしているの!?」

先輩は、目をまん丸にして言いました。先月末に引っ越した先がたまたま先輩のご実家近くで、「歩いて街に行くときに使うルート」というご近所トークをしていたら、もっと良い抜け道があると教えてくれました。

 

たいそう飲んで酔っ払った帰り道。飲み屋街から自宅までは、上り坂を歩いて20分。まだ冷たい風のなかマフラーに顔を埋めながら歩いていると、ふと、先輩がいう抜け道とはどこなのだろうと思いました。

学校のグラウンドのすぐ隣に、細い道がある。

雪に埋もれているけれど、道自体は踏み固められていて通ることができる。

細道、舗装されていないと言う条件下でも、人通りは多い。

これらの手がかりをもとに探します。陽のあるうちにも歩いたけれど気づきませんでした。果たして、こんな外灯もまばらな住宅街で、そんな道が見つかるでしょうか。

あった。

意識して歩くことしばらく。その道は、思ったよりあっけなく見つかりました。学校のグラウンドの横、ゴミステーションの隣。まだ雪が積もっているけれど、人ひとり通れるほどの道が、寒く暗い夜の住宅街にぽっかり口を開けています。木でできた電柱が、一本、遠くにまた一本とその道を照らして、その明かりのおかげで、見つけることができました。

 

先輩は、たびたび大仰な物言いをするひとです。歩いてみると、目をまん丸にしてオススメされるほど「近道」ではないことがわかりました。でも、ご近所さんしか知らない正真正銘の「抜け道」でした。次からはこの道を使おう。たいそう飲んだ帰り道、わたしはちょっと嬉しい気持ちでザクザクと雪の道を踏みしめました。

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