ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

一人旅

旅をしたい。

旅をしながら、旅をしたいというのもおかしな話です。でもこの旅は、旅であって旅ではありません。だからやっぱり、ちゃんと旅がしたいと思いました。

 

ひさしぶりに出かけることにしました。わたしが暮らす、北海道の左上を縦断するスタンプラリー。参加賞に各地域のご当地キャラピンズがもらえるというので、日帰りドライブを決行しました。

丸一日出かけるのはいつぶりでしょう。なんだかんだと気忙しく、なかなか手放しに休めない日々が続いていました。車にかかった蜘蛛の巣をはらって、運転席に乗り込みます。好きな音楽をかけて、自分のペースで、思うままに。以前はよくそうして、1人きりで出かけました。

 

スタンプラリーといっても暮らしている地域で行われる企画ですから、珍しい旅路ではありません。前回ドライブしたのは半年ほど前。それから季節が巡って、すっかり夏の様相でした。コロナ禍に減少傾向だった観光客も徐々に戻っているようで、道路や観光施設が少しだけ混みあっています。

 

旅がしたい。

ふいに思いました。

 

それは、晴れとも曇りともつかない空の色のせいかもしれません。

カーステレオから聞こえるボーカルの声が、少しかすれていたからかもしれません。

5年暮らしてもなお、見たことのなかった景色と出会ったせいかもしれません。

向こうに見える山の中腹が、雲でかげっていたからかもしれません。

風が、しっかり整えた髪もふんわり羽織ったカーディガンも吹き飛ばしていったせいかもしれません。

木にくくりつけられたブランコを、子どもたちが揺らして笑っていたせいかもしれません。

旅をしたいと思いました。

 

化粧道具と着替えだけを詰めた荷物を持って。お気に入りの服に歩きやすい靴を履いて。ハンドルを握って、エアコンではなく窓を開けて風にあたりながら、誰もわたしのことを知らない所で、それまで知らなかった人や物や景色に触れたい。そんなことを思いながら、ほんの1日、短い一人旅を終えました。