ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

ごはんだよ

ここ2日ほど、同居人が帰ってきています。なんだか不思議な表現ですが、シェアハウスに暮らすわたしは、同居人の実家が近いことからあまり帰ってこず、古い一軒家に実質一人暮らしをしているというわけです。同居人は仕事に集中したいときや楽器を弾くとき、会議や飲み会なんかでその家を使っていました。

 

「ごはんだよ」

メッセージ。〆切に追われるわたしは、自室でそれを受け取りました。終わりが見えない作業の手を止めて居間へ。すると名前の知らないおしゃれな料理が皿に並べられています。同居人は料理人でもありました。

「行儀悪いから、仕事しながらごはん食べるね」

そういって、皿の隣にパソコンを広げる同居人。わたしは向かいに座って、料理に箸をつけます。

「夕食って結局こういうことでいいと思うんだよね。定食とかじゃなくてさ、つまみ程度で」

目の前に並ぶのは、生クリームをつかったディップやチーズとサーモンをあわせた一口サイズのおつまみ。わたしは「わかる」と相槌をうちながら、冷凍ごはんをあたためます。

「そういえばさ、」

どちらからともなく話をします。仕事のこと、プライベートのこと、怒ったこと、笑ったこと、悩みごと、将来のこと。この頃 忙しく、目を向けられなかったいろいろが、美味しいごはんを腹に収めるかわりにぼろぼろと溢れ出しました。まだまだ仕事は山積みだし、話し込んでいる時間はありません。

「ごちそうさま」

40分ほどの夕食と40分ほどの会話を終えて自室へ引っ込み、仕事のつづき。それでもずいぶん気持ちがすっきりしていました。

 

わたしは10年一人暮らしをしてきたので、いまさら他人と一緒に暮らせるかは甚だ不安です。生活リズムとか、家事の基準とか、生活音とか暮らしのこだわりとか。でも、こうして抱え込んだもやもやを美味しい料理と入れ替えられる食卓があるなら、同居も悪くないと思うのでした。