ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2021-01-01から1年間の記事一覧

幸せな人生

「まさか」 という嬉しいことが、人生に起こります。 でもそれは、 「まさか」 という悲しいこととセットです。 車で2時間かけて、講演を聞きに行きました。うっかり開演時刻を見誤って10分ほど遅刻。慌てて受付に向かうと、当日券が売切れ。前売り券を買っ…

祖母と母、母と私

「もう、おかあさんったら」 わたしのセリフではありません。わたしの母、つまり、母と祖母の会話です。 1年半ぶりの祖母宅。従兄弟一家が暮らしていましたが、兄弟はすでに家を出ていて、ふだんは祖母と叔母さんだけ。3年前に祖父が他界してから、立派だっ…

夜道と缶ビール

「こんばんは」 お気に入りの焼き鳥屋へ。テーブル席はがらんとしていて、カウンターに3人だけ。わたしよりひとまわりくらい年上だろう男性、同じくひとまわり年上だろう女性とふたまわり年上くらいの男性のペア。マスターに、女性の隣を案内された20代半ば…

共感

「絶対、あいちゃん好きだと思う!」 上司が興奮気味に言いました。聞くと、今回の取材相手。東京でお仕事をされていたけれど、ご実家の都合もあり早期退職されて地元に帰ってきたという男性でした。ひとまわりもふたまわりも歳上の男性。どこにわたしが好き…

うちの女って

「あいちゃんって、うちの家系にいないタイプの女の子よね」 久しぶりに会った親戚のおばさんに言われました。母の妹です。母は三姉妹の長女でわたしと妹の姉妹を産み、おばさんは三姉妹の末っ子で男2人兄弟を産みました。歳の近い従兄弟たちとは、長い休み…

荷解き

お出かけから帰ってきて荷解きをするとき、なんだか心がすっからかんになる気がします。 寂しい、とはどこか違う。思い出に浸るのでもない。ぎゅうぎゅうに詰め込まれた荷物を片っ端から納めるべき場所に納めて綺麗になっていくことには心地良い感覚があるの…

触れてみてわかること

猫が好きです。 犬だって兎だってハムスターだって好きだけれど、わたしにとっての猫への愛はずば抜けている気がします。 家のまわりに野良猫がいて、野良だから懐くことはないのだけれど、見かけるたび膝を折って「おいで」と呼びかける程度には気をやって…

故郷

「ふるさとはどうよ」 半年ぶりに会った父は言いました。 仕事やら何やらが忙しくて、あとまあ、実家に帰るのに後ろめたい気持ちもなきにしもあらずで、迎えたお盆。4時間ほどかかる実家を目指して、ひたすら車を走らせます。 いつもはそれほどでもないのに…

まわり道するひと、道草をくうひと

やるべきことがあります。 仕事、家事、サークルの作業。早寝、早起き、最低3回の食事。 考えるべきことがあります。 仕事のこと、プライベートのこと、将来のこと。昨日のこと、明日のこと、今日これからのこと。 日々、やるべきことをやり、考えるべきこと…

打ち上げ花火、会場から見るか?路肩から見るか?

ヒューーー…どおおおん 腹に響く音。わたしの肩も、ビクリと弾みます。まつ毛を撫でつけるマスカラを持つ手が揺れて、危ない危ない。うちの裏の港であがる花火は、毎年この時期、夏の終わりを呼び寄せるように盛大に行われます。暑さのために開けた窓の外か…

心からの言葉

「おっいいじゃん〜綺麗だね!」「ほんとだ!夕陽みたいで素敵!」子ども向けの工作イベント。ペットボトルを短冊のように縦に切りバラして、さらに3センチくらいに切ってからトースターで焼くと、くるんと丸まります。それをビーズのようにつなげてアクセサ…

木曜日の会

わたしは、ひとりでもわりと平気。 ひとりでドライブに行けるし、ひとりで飲食店に入れます。ひとりの休日ともなれば映画を借りて手間のかかる料理をします。だからでしょうか、決まってそばにいるような友だち関係はありません。 毎日いっしょにご飯を食べ…

夏の日常

「このあたりかな」 港はすでに人が集まりだしていて、あちらこちらでキャンプ用のイスをたてたりレジャーシートを敷いたり、味気ないコンクリートの地面が色とろどりに塗りかえられています。わたしたちも、岸壁にほど近い安全ロープの前に、アニメキャラが…

それほどわたしたちは

「ラーメン行こうよ」 飲み会。お店で飲んで、別れがたくて、わたしのうちに転がり込んだ二次会。夜はもう日付を変えていて、会話に飛び交う声はどれも呂律が怪しくふわふわしています。惰性で口に運ぶコップは結露でベシャベシャで、よくわからない味のする…

悪くないプレゼント

なにが1番喜ばれるでしょう。 出会って日は浅いけれど、特別な日を記念してプレゼントをあげたい人。 大げさなモノをあげて趣味をはずしていたら迷惑でしょうし、食べ物や飲み物なんかじゃ味気ない。もらって嬉しくて、かつ重荷に感じさせないモノ。 同世代…

あのころ感じた胸の高鳴りは

小学生のころ、今とは比べ物にならないくらい本を読んでいました。フィクション作品が大半で、魔法学校からヴァンパイア、殺人鬼まで多種多様な世界をのぞきました。気に入った本は作家買いをして本棚に並べます。その1つが「ぼくらの」シリーズでした。 中…

ニコニコマーク

その日は、朝からバタバタとしていました。朝一で取引先に直行して打ち合わせ、帰社次第べつの案件をまとめてメール、その合間に横槍で入ってくる業務を片付けながら、午後に差し掛かると業務終了後に片付けるべき作業を思い浮かべては忘れないようメモ帳に…

思い出の

朝の狸小路は、思った以上に眩しかったのを覚えています。 かつての札幌国際短編映画祭は、ノミネート作品のオールナイト上映が行われていました。シネコンが主流となった昨今、オールナイト上映はいち映画ファンとして憧れで、「短編映画祭」というよりも「…

仕事って

「水曜、18:30からの会議なんだけど」 わたしの定時は19:00。しかもその日は、終業後に予定があります。 「あなたの担当企画だし、会議、出られる?」 わたしは口をつぐみました。うーん。 こうして悩んでしまうことは、果たして自然なのでしょうか。 新卒で…

フランス映画のジレンマ

「〜〜〜」 ブロンズの美しい女性。白い肌に映えるリップはふっくらと紅く目を引きます。その唇からこぼれる音は、日本語とも英語とも違うリズム。フランス語でした。 映画を何本も見ていると、制作国の傾向が目につくようになります。よく言われるのは、イ…

もう戻らない、もう戻れない

もう戻らないのだと思うと、胸の奥をぎゅうと強く掴まれる心地がします。 夏休み、ひとりきりで実家の自室に寝転がる昼下がり。父と母は仕事、妹はどこでなにをしているのでしょう、物音ひとつしません。ただ、窓の外からは夏の陽光が少し傾きながら入り込ん…

彼女のせい

「…?」 朝起きて、見渡す室内。ソファの上に横たわるわたし、机の上は飲み会の痕跡。グラスは2つあるのに、室内にはわたしだけ。 「またやってしまった…」 最近、自宅で飲み会をしてそのまま寝落ちしてしまうことがあります。楽しく飲んで、楽しかった記憶…

お菓子づくりは人生

お菓子づくりと人生は似ています。 もともと、大学の夏休みに暇を極めたのをきっかけに、お菓子づくりが好きでした。ご飯を愛情で作るとしたら、お菓子は化学。途中で味見ができるわけではないし、温度や程度を見誤るとまったく残念な代物になります。しかも…

わたしの部屋、植物禁止

実家の自室は南向きでした。おまけに東にも窓があったので、日の入りから1日の大半で日光がふりそそぎ、家中で1番陽が入るのがわたしの部屋でした。 そこに目をつけたのは、植物を育てるのが好きな母。庭もプランターも鉢植えも、上手に植えて花を咲かせる母…

お酒を飲みながら映画

ドロドロに疲れた夜は、お酒を飲みながら映画を見たいと思います。 平日、昼下がりの職場。行き詰まって頭を掻いていると、電話が1本。よくない電話です。いよいよ本当に上手くいかなくて、じゃあプライベートならどうなのと問えば、やっぱりちっとも順調じ…

ふるさと

誰かが言っていました。「責任は分散させたほうがいい」と。1つところに集中させると唯一のそれがダメになってしまったときのダメージが大きいので、分散させてリスクヘッジするのです。仕事は1人で抱え込むより複数人で取り組んだ方がいいし、心潤す趣味は…

甘やかされる

どうにもダメなかんじです。 せっかく開けたピアスが塞がりだしたころから、なんだか歯車を掛け違えたようにコロコロとダメなことが続いています。1万いくら払って病院で開けてもらったピアス穴はきっかり1ヶ月で塞がり、期待いっぱいで買った2千円のセカン…

パイナップル

「げっ」 時計を見ると、16時15分前。急がなきゃ。 夏を目前にした夕方の空は明るくて、それでも、風向きなのか車通りなのか、夜の気配をにじませます。車を走らせて家についたころには、窓から差しこむ陽は赤色をしていました。郵便受けを確認すると、水道…

そういうこと

実家の1人部屋は、南向きでした。南と東に窓がついていて、日の出以降1日の大半で太陽が差し込みます。休日、昼過ぎまで寝ていようと心に決めても、10時頃には眩しさと暑さで布団から這い出すのでした。 ですから、わたしの部屋は母の世話する花や木の人気ス…

賛成

「家を一歩でたらルールだらけ。私ルールって苦手。組織ってキライ。でも寂しいのはヤダ」 インスタグラムを流し見ていたら、エッセイマンガの女の子が言っていました。おそらくわたしと同じくらいか、少し上くらいを想定して描かれた彼女。半分わかって、半…