ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2021-01-01から1年間の記事一覧

わたしたちの自傷行為

「髪染めたの」 そう言って、頭を左右に振って揺らして見せる彼女。けれどそれは画面の向こうで、パソコン越しのわたしにはイマイチ違いがわかりませんでした。ただ、彼女の顔が晴れ晴れとしていたことが印象的でした。 「髪を切るって、やっぱり、自傷行為…

すきな場所

緊急事態宣言があけました。夜の街にじわじわと明かりがともり、そろそろと出てきた人たちが、少し厚くなった上着の前をかき合わせ目的のお店へ足早に向かいます。安さが売りの大衆居酒屋、料理が美味しい洋食バル、落ち着いた雰囲気の寿司居酒屋。わたしの…

教訓として

わたしが手に取る本は、もっぱらフィクション作品。あり得ないけどあるような、夢と現実の境をふわふわとただよう本が好きです。たまにエッセイも。作者の人柄があらわれる軽妙な文章に浸ります。ノンフィクション作品だって読まないことはありません。とは…

おわってほしくない夜

「ピザつくるから来ない?」 友だちに誘われ、いつもお邪魔している彼女の家へ。勝手知ったる玄関を開けると、男女さまざまな靴が並んでいます。居間のドアからわいわいと声がもれていて、多くひとが集まっているのがわかりました。来ると聞かされていたメン…

わたしたち、いつ会ったんだっけ?

時刻は午前3時30分。毛布をかぶって、そのつるつるとした毛並みを撫でながら、彼女の話に相槌を打ちます。暖房の設定温度が低いのは、わたしが「普段家でも暖房高くしてないから、わざわざ暖かくしなくていいよ」と言ったから。平日、明日も仕事という、冬の…

健康に感謝

新型コロナワクチン、接種2回目。 「薬、ちゃんと用意しておきなよ」 「経口補水液あるから、あげようか」 一人暮らしの20代を、周囲の人が心配してくれます。しかし当のわたしは楽観的でした。両親と妹はワクチン接種後、2回目であろうと熱は上がらず通常生…

お見送り

田舎の雑貨屋さん。大工仕事が得意そうなご主人と、グレイヘアが素敵な奥さまが営んで、広い店内に古道具が所狭しと並べられていました。ガタガタいう引き戸をひいたとき、店の真ん中に置かれたダルマストーブがぱちぱちいって、そのまわりにご主人と奥さま…

わたしは、

わたしはいつも、ちょっぴりお喋りが過ぎます。口数が多いとか、大きな声を出すとかではありません(もしかしたらそれらもあるかもしれません)。大仰な言葉を使ってしまうのです。もっともらしく綺麗な文章で喋りたて、聞いている人はなるほどと頷いて、ほ…

暮らしを人生にする音楽

朝。いつものように起きて身支度を整えます。窓の外から聞こえる鳥の声が、よく晴れていることを知らせます。車通りが穏やかなのか、エンジン音は遠く、隣人が起き出した気配もありません。世間は休日でも、わたしは平日。肌寒くなってきたこの頃、やっとの…

ようやく

大好きなこと。やりたいと思って始めたこと。それが、どうしてもできなくなってしまったとき。彼女は、彼女に問いました。 「それでもできなかったら?」 「やめる。散歩したり、景色をみたり、昼寝したり…何もしない。そのうちに、急にやりたくなるんだよ」…

彼女と友だちで良かった

「『百獣の王・ライオン』というテレビ番組で、インパラが捕食されるシーン。うちのお母さんが可哀想で見れないっていうから、この番組はインパラではなくライオンに感情移入するために作られているのだから、インパラが可哀想っていうのはお門違いじゃない…

派閥

わたしは、TSUTAYA派でした。大学生のころ映画にハマり、DVDを借りにいつも決まって行ったのは大通りのTSUTAYAさん。広い店内に、この世のすべての映画を集めたというような数のDVDが所狭しと並べられていました。就職のために引っ越した田舎町にもTSUTAYAと…

夜を惜しむように

高校生の取材をうけました。部活動の一環で、方針としてアポ取りから取材まで学生が自ら行うらしく、拙い敬語でのメールや緊張の面持ちの打ち合わせに、こちらがソワソワと落ち着かない気持ちになりました。いっそのこと一声かけてやろうかとも思いました。…

美しい日々

日々は美しい。 その気持ちを忘れずに生きたいものです。 たとえば、朝目が覚めたときに隣に眠る恋人の顔が美しいとか、仕事の合間に耳にする人々の会話が興味深いとか、行きつけのバーで繰り広げられる人間模様がドラマティックであるとか。 そうした日々の…

本を読む子ども、読まない大人

わたしは、本を読む子どもでした。 おこづかいシステムはなかったけれど本をよく買ってもらったし、親戚のおばさんがくれるのはいつも図書カード。重たいハードカバーの冒険小説をカバンに入れて「ただでさえ教科書や資料集で重いのに…」と母に呆れられなが…

まごうことなき

暗い。 昨夜眠気に負けたぶん早起きしようとセットしたアラームはしっかり役目を果たして、けたたましく鳴りました。うんと伸びをして目を開け…たつもりが、まっくら。目覚ましを手で探り、盤面を照らすライトをつけるとまごうことなき午前5時。けれどその暗…

それはきっと

やばいと思いました。 取り返せない、後戻りのできないこと。これまでもそこにあったのに、ようやく存在に気づいて、改めて感じる恐怖。前に進むしかない不安。何が待ち受けているのかわからない、暗闇の中を手探りで進む感覚。やばいと思いました。 こうい…

眠らなくていいの。ただ、目を瞑っていなさい

眠れない夜。大人になったいまなら対処法を知っているけれど、子どものころならなす術なし。「夜は眠るもの」という母や学校の先生からの教えがあるし、「夜は怖いもの」という通念があります。寝なければ寝なければと思ううちによっぽど眠れなくなって、お…

ノンフィクション作品

夏休みの宿題で読んだ伝記。 わたしは、ドリルやプリント、自由研究なんかがある夏休みの宿題のなかで、読書感想文が一等好きでした。ほかはからっきし。出されたプリントは答えを左側に置きながらこなしたし、自由研究は親の手を借りました。でも、読書感想…

グレープ餅

ひさしぶりに、グレープ餅を食べました。 ひさしぶりもひさしぶり、小学生以来でしょうか。通っていた小学校の向かいには昔ながらの駄菓子屋さんがあって、おかあさんからもらった小銭入れを携えて、友だちと向かいました。古い紙のにおいと、いつでも薄暗い…

電話

「連絡したらその日に電話くれないと」 久しぶりに声を聞いた妹から、一言。そんな、面倒くさい彼女みたいな…。 2日前の朝、母からメッセージが入っていました。寝起きの目を擦りながら返信すると、「特に用事はないんだけど、元気かなと思って」。そういえ…

日々の余白に

日々の余白に、文章がしゅるんとはまり込む。いえ、生まれるといった方が近いでしょうか。うん、溜まるといった方が良いかもしれません。部屋の隅に溜まっていく埃のように、誰にも気づかれず積み重なって、ようやくカタチになったとき人目に触れる、みたい…

暮らしのコツ

夜。 思ったより長引いた打合せに、なんだか急に冷たくなった風。身体は重く、頭は働きません。ようやく辿り着いた自宅の駐車場。荷物を持って車から降り、階段を登って自室に帰れば良いのだけれど、どうにも気がすすまずにふうと溜息。決心して、ドアを開け…

勝手だなあ

朝、家を出る前。長袖を着たけれど、今夜の帰りは遅いことを思い出します。念のため、羽織物を持ちました。 出勤、風の通り道である会社の玄関前。強い風が向こうから吹いて、前髪もスカートの裾も攫っていきます。その風が無視できないほど冷たくて、高い空…

夏の名残の

「そんなつもりなかったのにお酒飲みはじめちゃいました」 スラスラと流れる文字列のなかから拾いあげられる文章。嬉しくて、またグラスを傾けます。 配信ライブは、ウイルス禍の音楽業界が見出した暁光といえるでしょう。遠方で活躍するバンドのライブに自…

都市

ひさしぶりに、都市へ。 ウイルス禍で最小限に控えていた都市への移動ですが、元来わたしは、洋服を買う場所も髪を切る所も、飲みに行って馬鹿笑いをする友だちだって都市にあるのでした。 車で、南へ。 いつもはバスで行くけれど、密を懸念して1人車を走ら…

tanka

仕事でTwitterを運用しなければならず、大学ぶりのTwitterアプリを再インストールしました。当時つかっていたアカウントが残っていて懐かしさに覗いてみると、大学時代の友だちが数人、その頃のまま呟いていました。多くは大学ですれ違ったら挨拶する程度の…

休日

出勤。 土日は、世間一般に休日ということもあって世界が穏やかです。アパートに面した国道の車通りは少ないし、朝早く動きだす隣人の音もありません。そういえば、実家に暮らしていたころ、休日は家族に起こされる10時ころまでベッドの上で、声をかけられよ…

もし宝くじが当たったら

9月4日。きょうは「宝くじの日」だそう。 もし1億円が当たったら。 まず、これから先60年、いえ、今は人生100年世代と言われますから、あと80年ほど、暮らしていくのに必要なお金を計算します。すると、1億円ぽっちじゃぜんぜん足りないことに気づきました。…

4時間くらいが

「あした、洗面台の交換にいってもいい?」 月曜日に大家さんから連絡。ど平日に明日なんて無理に決まってるだろと思ったけれど、案外すんなり半休がとれて、火曜日の午前中。いつもなら仕事をしている時間に自宅のソファに深く腰掛けて、洗面台を取り付ける…