ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

2020-01-01から1年間の記事一覧

あなたの世界では“そう”なの

生きている限り世界は広がりつづけていて、その広大な可能性に、いつも驚かされます。驚かされたのちに笑顔になる世界もあれば、眉根を寄せる世界もある。先日は、眉根を寄せました。 「あなたの世界は“そう”なの」 そうも言っておかないと、やっていけない…

一般国道40号

アクセルを踏むたびに鼓動が高まる道。 なんの変哲もないバイパスは、片側一車線で信号はなく、みなスピードのままに車を走らせます。周囲は山。たまに開けたかと思えば草がまばらに生えるばかりの野っぱらで、鹿がひょっこり顔を出すたびにハンドルを握る手…

オレンジ

ここ数日、北海道の左上はお天気が悪くて、雨がふったりやんだりしています。雲が出ているので、いっそう早く陽が暮れます。 今日もそう。 「雨が降る予報じゃなかったんですけどね」 同僚は言うけれど、路面はしっとり濡れて黒くなったまま、渇くことはあり…

におい

においがしています。 ずっと、母の使う洗顔石鹸のにおいがしていて、ずっとしているということはにおいの元はわたしなのだろうけれど、実家に帰ってその洗顔石鹸を借りたのは、もう3日も前のことでした。その間に顔を洗ったり風呂に入ったりしているのだか…

いけない

寝てしまいました。 夜の長距離ドライブは眠気との戦い。戦いに、負けました。 休日のおでかけ、明日は仕事とつく帰り道。まちの中では、眠気を感じることもありません。すれ違う車、追い越していくバックライト、角を曲がり、信号が点滅して、アクセルとブ…

あかるい道のり

地元に帰るときは、たいてい夜です。 移動の時間が惜しくて、仕事おわりに車を走らせます。だから何度も通った道のりは、記憶のなかでいつも夜。 等間隔に並ぶ街灯、すれ違うヘッドライト、まばらに灯る家々の明かり。 夜ひとりで走らせる車から見るのは、昼…

暮らしていかねば

すごく良い映画でした。 2時間、映画館のふかふかの椅子に身体を沈めて、そのあいだにずるずると、作品に取り込まれていくようでした。あと2回見たいと思いました。あと2回見れば、取り込まれてしまったこの作品のどこかに、わたしなりの答えが見つけられる…

爪、すてきですね

1年半ほど、ネイルをつづけています。 プチプラポリッシュのセルフネイルだけれど、下手の横好きも高じるもので、週に2度ほど爪を塗りかえます。色やデザインをかえるだけで、服装や化粧、果てには気分もかわります。 ネイルをはじめた当初は、レッドやダー…

胸おどる駅

北海道一の都市、札幌には、地下鉄があります。45にのぼる駅、0時まで走る電車は、人々の主要な移動手段です。 わたしも、大学時代は地下鉄をつかっていました。眠い目をこすって一限に通った大学、だるいだるいと思いながら出勤したバイト、胸をばくばくと…

日曜、朝イチ、がらがらのシネコン

大好きな監督の新作を見るために、映画館へ行きました。北海道の左上には、映画館がありません。片道2時間のバスに揺られて、札幌へ行きます。 これまで監督の作品は、ミニシアターでの上映でした。オレンジ色の照明が薄暗くて、椅子の座りがイマイチ悪くて…

信じられないほど

眠い。 春眠暁を覚えずとはいうけれど、秋眠も暁を覚えないのでしょうか。 認めざるを得ないほど秋です。 朝晩ばかりではなく、日中にも上着を羽織らずにはいられなくなりました。肌色のストッキングも黒色のタイツに代わり、車で出かける際には、うすくヒー…

しずかに

「それでは、イベントスタートです!」 わたしたちが企画したイベントが、無事開催に至りました。いえ、無事ではありません。天気が危ぶまれ、翌日に延期。朝起きたときから空はパッとしなくて、でも今さら中止はできません。降ってくれるな、どうか降ってく…

初心者

「なし食べる?」 お土産屋さんで働いている友だち。秋のこの時期、隣町の果樹地帯からくだものが入るそうです。 「家にまだ前もらったやつがあってさ。あ、ナンバンは?」 ナンバンはくだものじゃないじゃん、なんて言いながら彼女が持つふくろを覗きこむと…

かぼちゃのなか

公園で、かぼちゃを彫りました。 10月なのでジャックオランタン。隣町の農家さんからいただいたかぼちゃです。タネを食べるかぼちゃで、 「ガワなら持っていっていいよ。タネさえかえしてくれればいくらでも」 イベントに展示するために、会場となる公園で、…

おいしいビール

はじめてのビールは、往々にして不味いもの。けれど多くの大人は、飲みの席で腰を落ち着けるそのまえに「ビール1つ」と注文をすませ、手拭きを広げるうちに到着したビールジョッキを傾けて、ごいごいと喉を鳴らします。不味かったはずのビールは、いつのま…

秋の空

毎日、晴れを祈っています。 2ヶ月かけて企画したイベントが、いよいよ今週末開催です。けれど、天気は曇りのち雨。延期日程も設けていますが、なんとしても今週末に開催したい。毎日、晴れを祈っています。 まず、実家のおかあさんに電話をしました。おかあ…

秋の朝

久しぶりの朝シフト。 5時にセットした目覚まし時計の、2度目のスヌーズで目が覚めました。昨夜、おかあさんとの電話に夢中になって夜更かししたにしては上出来です。身体を起こすために、3層に重ねた布団を蹴飛ばしました。 冬用毛布、夏用ブランケット、秋…

ガイドさんはそのへんにいる

何人かで美術館や博物館に行くと、決まって集団から遅れてしまいます。みんなが売店コーナーを隅々まで見てまわり、出口に設置されたソファなんかでお喋りしている頃にようやく見終わって、「まだ中にいたの!?」なんてびっくりされます。 わたしにとって、…

虹の記憶

「虹だよ!!!」 廊下で同級生が叫ぶ声に、わたしばかりでなく、2階に並ぶ教室それぞれからひょこひょこと顔が覗きました。わたしたちが、走る一歩手前、競歩ほどの速さで廊下を急ぐと、下級生たちもぞろぞろと続きます。2、3人、いかにもやんちゃな風の男…

あっ、

あっという間。 北海道の左上から札幌まで、バスだと2時間から3時間。経由地やルートによってかわりますが、1日1便だけ往復する日本海ルートは3時間コース。札幌から石狩に抜けて、ひたすら海沿いのオロロンラインを北上します。 先日、前後の予定に都合がよ…

きちんと帰ってきた夜の翌朝

きちんと帰ってきた夜はえらい。 その夜も、きちんと帰ってきました。 地域の女性を集めての飲み会。この春、北海道の左上には若い女性が多く移住しました。ある女性は結婚で、ある女性は転職でやってきて半年ほど。これまで都市部で暮らしていた女性たちは…

母言うことには

安物買いの銭失いはやめなさい。 良いものを、長くもちなさい。 母の言うことは、いつも正しい。 「毛抜き」は、いまや100円ショップからドラッグストアの美容コーナーまで、広く扱われるアイテムです。ピンと飛びだした目障りな毛を引き抜くのに便利。また…

わたしの全部

結婚式。 大学からの友だちです。進学を機にひとり暮らしを始めたわたしに、友だちはゼロ。ひとり地下鉄に乗り、大学へ行き、オリエンテーションを受けて、ひとり帰ろうとしたエレベーターホール。彼女が声をかけてくれました。出会いから8年。わたしが札幌…

成り立ち

むかし、写生大会に参加しました。妹は絵を描くのが好きだったので、週末、母が写生大会に連れて行きました。わたしも一緒に行きました。母は、少し意外そうでした。当時わたしは、絵を描くのが嫌いだったのです。しょっちゅう漫画をよんでいたから頭の中に…

きょうのわたし

腕時計の電池を交換しました。 大学時代につかっていたものが、机の奥から出てきました。むかし、まちあわせまでの時間つぶしに入った雑貨屋でひとめぼれした、安い時計。黒のバンドとピンクゴールドの文字盤が美しくて、シックなデザインは時も場所も服装も…

白色の金木犀

金木犀は橙色。 最近知りました。ずっと、白色とばかり思っていたのです。というのも、金木犀は北海道に自生しません。高校生の頃に読んだ恋愛漫画に登場したその花は、もちろん白黒、香りもなくて、サイズや感触も分かりません。可憐な花と芳しい香りで、夏…

駐車場人間観察

猫がいました。 日暮れ時、家に帰ると駐車場の隅に猫の姿。初めて見かける猫でした。 「おいで」 身を低くして声をかけてみるけれど、猫は、黄緑の目をまんまるにして睨むばかり。手を伸ばして、じり、と距離を縮めようものなら、たっ、と縮めた分プラス50セ…

やられたらやりかえせ

申請関係で公的機関に資料を提出したら、ねちねちお小言付きで突き返されました。わたしではなく、仲間が。イライラ。 数人でイベント企画をしています。それぞれの能力や人脈を頼りにイベントを組み立てる行程は、まさにパズル。ぱたぱたとピースがあわさっ…

きちんと帰ってきた夜

きちんと帰ってきた夜はえらい。 お酒が好きです。お酒の味も、酔っぱらった浮遊感も好きだけれど、なにより、その場の全員が笑顔で心地よさそうに他愛のない話をしている、あの空間が好き。なので、居酒屋さんは最高です。あちらこちらで話の花が咲いて、ど…

衝撃

その日は、なんだかダメでした。 理由はわからないけれど、何につけてもダメな日。朝きちんと起きられたのにお腹が空いていなかったり、それでも朝ごはんを食べようとしたその器をひっくりかえしたり、やっとの思いで出社したらデスクの上には覚えのない仕事…